1. はじめに。慢性気道疾患って何?

肺の病気には、喘息、慢性閉塞性肺疾患COPDともいいます)、肺気腫慢性気管支炎という病気があり、これらをまとめて「慢性気道疾患」といいます。いずれも、日頃から長続きする咳や痰、息切れ、胸やのどがゼーゼー・ヒューヒューするといった肺の症状を引き起こす病気です。これらは、しばしば発作(ほっさ)や増悪(ぞうあく)といって普段より症状が強くなることがあり、時には救急病院の受診や入院での治療が必要になるほど重症化することもあります。

喘息(気管支ぜんそく)とは、アレルギーとの関係が深いとされ、若い方から高齢の方まで誰でもかかることがある病気です。一方でCOPDは主にタバコを吸うことが原因とされ、特に高齢の方に多い病気です。肺気腫は肺のレントゲン写真やCT検査で診断され、慢性気管支炎は数か月単位で長続きする咳と痰の症状で診断される病気です。

これらの慢性気道疾患はCOPDでは全国で500万人以上、喘息も全国で400万人以上の患者様がいるというまとめがあります。しかしその中にはご自身が病気と気付いておらず、適切な治療を受けられていない患者様もたくさんいらっしゃいます。また一人の患者様が二つ以上の病気を同時に併せ持つということも珍しくないと言われています。

さらに慢性気道疾患については、これまで日本中だけでなく世界の様々なグループが研究を行ってきましたが、その病気の原因や成り立ちの全てが、まだはっきりと解明されたわけではなく、専門の医師による治療を受けていても症状がよくならない方が、まだたくさんいらっしゃるのというのが現状です。

2. PIRICA研究の目的と概要

わたしたちのグループは、慢性気道疾患を持つ患者様たちの病気の背景を知り、その経過を追うことで、病気をより正しく理解し、その診断や治療に役立てようと考えました。特にこれまで世界中で行われた病気の研究やお薬の開発はひとつの病気に対して行われてきたため、二つ以上の病気を併せ持つ場合、病気の理解や治療法の進歩は十分とは言えません。

そこで今回わたしたちは呼吸器科の外来に通院する慢性気道疾患の患者様にご協力いただき、症状に関する詳しい質問、肺機能検査、血液検査、画像検査などを行って、それぞれの病気、そして二つ以上の病気をもつ患者様の理解を深めるための調査を行うこととしました。

この研究は新しい治療やお薬を投与するといった研究ではありません。あくまで私たちのグループの病院に通院していらっしゃる患者様のカルテのデータと検査の結果を記録し、病気の本質を探っていというものになります。(専門的な言葉で観察研究、コホート研究といいます。)

私たちはこの研究をPIRICA研究(the Prospective Integrative Cohort of Chronic Airways Disease study)と名付けました。この「ピリカ」という言葉にはまた、北海道に住むアイヌの人たちの言葉で「良い」「美しい」「きれいだ」「立派だ」「豊かだ」という意味があります。

この研究を通じて、私たちは慢性気道疾患の患者様たちを一人でも多く助けたい、そして医学全体の進歩に貢献したいと考えています。